孤島の鬼

日々の備忘録。文章表現、感情表現の練習の場です。更新はなるべく毎日・・・

僕のことを手放しで認めてくれる人

家族の話。うちの父は僕が何かすると、必ずその道のプロを目指したらどうだ。と進めてくれる人だった。例えば小学校の時にアナウンス部に入ったという話をしたら、アナウンサーになったらどうだ。児童会に入ったら政治家になったらどうだ。小さい頃は思いつきで話しているような父の言葉にイラついたりしたものだ。そんな簡単にプロになれるはずないだろう、少し上手なぐらいでプロになれるはずないだろうと、思っていた。そんな経験がプロに通用するはずはないだろう、思いつきで話さないでほしい、なんてことを思っていた。それは僕が成長して、中学生、高校生になる時、また社会人になるときにもそんな話をしていた。社会人になる時には、自分で選んだ道があったので、そんな時に他の道を示す父にこれまたイラついたりした。これからはこの道に専念しないといけないのに、いつまでもフラフラしてられないよ、と。そうこうしているうちに僕も30代半ばをすぎて、将来なにになる、とか、どういったことに才能があるだのといった話は当然なくなってくる。もうすでにこの人はこういった人であって、それ以外の何かになるという話は随分と減ってしまった。それはつまり僕の未来に対する話が減ってしまったということだ。

そんなやりとりをとっくに忘れて日々の生活を送っていたが、このコロナかの中で、両親と会う機会もめっきり減ってしまった。もともと足繁く通っていたわけでもないし、なにかしら理由がないと会いに行くのも気恥ずかしい。そんな調子だからあったとしても短時間だけであったりしたのだが、先日、久々に少し時間をとることができた。

茶店に入ってお茶を飲みながら近況報告をしていると、私が最近始めた将棋の話になった。趣味として、ぼちぼち楽しんでいる私に対して、父はやはり「藤井くんみたいになるには、少し遅いな」とつぶやいた。

ああ、父にとっても僕はもう少し遅い存在になってしまったのだという寂しさと、少しどころか全然遅いのにまだ少し、夢を持ってくれている父に対して、なんとも言えない感情が湧いた。僕に対して、手放しで夢を見てくれる人がいて、それがあともう10年もすればいなくなってしまうのだ、という事実がとても悲しい。